その3

なので、最初に、「大多数の大人は、かなり子供だ」という事実を、こどもにばらしてしまってはどうでしょうか。

たとえば、大人も、仲直りしなきゃ行けないのに、仲直りできないことはたくさんあります。食べちゃいけないのに、ずるずるとおやつを食べて、太ってしまう大人もたくさんいます。勉強しなきゃいけないのに、ずるずると自堕落に漫画本を読んでいることもあります。

自分の立場や利益を守るために、欺瞞に満ちたことをたくさん言っています。

将来味方になってくれるだろうという見返りを期待して、打算的に人助けをしたりします。つまらない仕事を、金のために我慢してやることもたくさんあります。理屈ばかり立派で、ろくに価値を生み出さないこともよくあります。

それらは、特別にダメな大人というわけではなく、お父さんも、お母さんも、お祖父ちゃんも、お婆ちゃんも、教科書に出てくるエライ人たちも、学校の先生も、みんな、多かれ少なかれ、そういうダメなところのある人間です。

しかし、どうしょうもなく利己的で傲慢ないやらしい大人が、ちょっとした場面で、何の見返りもないのに、他の人の仕事を誠心誠意手伝ってあげたりするのです。

偽善的なことばかり言っている人間のクズのような大人が、ある瞬間、真実を素直に認めるのです。高い年収とストックオプションをえげつなく要求し、金のためにしか動かなそうな守銭奴エンジニアが、いざというときに、利益も打算も抜きに、純粋に最高の仕事をするために、徹夜して頑張るのです。

いつも人を騙し、出し抜いて、自分だけおいしいところを持っていこうとする大人が、あるとき、騙されてしまった人たちのために、見返りもなしに立ち上がることがあるのです。

結局、人間という生き物は、利己性と利他性の両方の欲求を持っていて、人々のその両方の欲求が複雑に絡み合って、この社会ができているのです。

だから、ほとんどの大人は、金や自分の汚い欲望のために仕事をしますが、同時に、自分の中の美しい気持ちにも動かされて仕事をしているのです。

だから、その仕事を、金のためにやっている、というのは、たいてい正しいけれども、金「だけ」のためにやっているというのは、たいていは正しくないのです。

大人は嘘つきで、汚くて、タテマエを言う、というのは正しいけれども、ウソばかりついていて、美しいところがなくって、ホンネを言うことがない、

というのは、間違いなのです。